水道水の消毒というと塩素をイメージする方が多いと思いますが、世界にはオゾンや紫外線(UV)による消毒を採用している国もあります。
この記事では、それぞれの消毒方法の仕組みと特徴、そして日本が塩素消毒を採用し続けている理由を整理します。
塩素・オゾン・UV、3つの消毒方法の仕組み
「残留効果」がなぜ重要なのか
日本でもオゾンが使われている「高度浄水処理」とは
海外の消毒方法との違い
それぞれの方法が抱える、それぞれの課題
水道水の消毒方法には何があるか
塩素消毒
塩素の酸化力を利用して微生物を死滅させる方法です。水道水に塩素が入っている理由で解説した通り、日本ではこの方式が水道法で義務付けられています。
オゾン消毒
オゾン(O₃)は塩素よりも強い酸化力を持つ気体で、微生物を短時間で不活化できます。無声放電という方法でオゾンを発生させ、水に溶かし込んで使います。
紫外線(UV)消毒
紫外線を水に照射し、微生物のDNA・RNAに直接ダメージを与えて増殖できなくする方法です。薬品を使わないため、化学物質による副生成物が生じにくいという特徴があります。
| 方式 | 仕組み | 残留効果 |
|---|---|---|
塩素 | 酸化力で微生物を死滅させる | あり(配水管の中でも持続) |
オゾン | 強い酸化力で微生物を不活化させる | なし(短時間で酸素に分解) |
紫外線(UV) | DNA・RNAにダメージを与える | なし(水を変化させない) |
なぜ「残留効果」が重要なのか
オゾンは水中で不安定なため、20分ほどで活性の半分以上が失われるとされ、紫外線は水そのものを変化させないため、どちらも消毒処理後に配水管の中で細菌が再び増える可能性を防ぐ効果は持ちません。塩素だけが、蛇口に届くまで消毒効果を持続させる「残留効果」を持っています。
浄水場を出た水は、長い配水管網を通って各家庭に届きます。この間に細菌が混入するリスクをゼロにできない以上、「届くまで効果が続く」残留効果は、配水網が広い国ほど重要な条件になります。
- 横軸に「浄水場」「配水管の中間地点」「蛇口」の3点をとった図
- 塩素は緩やかに下がりながらも蛇口まで効果が残る線、オゾン・UVは浄水場を出た直後に効果がゼロに近づく線を描く
- 3本の線を色分けし、凡例を添える
日本でもオゾン・UVは使われていないのか
実は、日本でもオゾンは使われています。ただし塩素の「代わり」としてではなく、「高度浄水処理」という形で塩素消毒の前段階に組み込まれています。
東京都水道局では、オゾンの強い酸化力でカビ臭や有機物を分解し、続く生物活性炭でそれらを吸着除去する高度浄水処理を導入しています。この処理により、トリハロメタンなどの消毒副生成物のもとになる有機物をあらかじめ減らしたうえで、法律で定められた塩素消毒を行うことができます。東京都の金町浄水場では2013年10月に高度浄水処理100%を達成しています。
つまり日本の方式は、オゾン・UVを塩素の「代わり」にするのではなく、塩素消毒の「前段階」として組み合わせることで、双方の長所を両立させる設計だといえます。オゾン・生物活性炭で水をあらかじめきれいにしたうえで、最後に塩素を加えて残留効果を持たせるという、いわば二段構えの仕組みです。
オゾンは万能ではありません。水に含まれる臭化物イオンと反応すると「臭素酸」という物質が生じることがあり、これはIARCでグループ2B(トリハロメタンの一部と同じ分類)とされています。日本ではこの臭素酸にも0.01mg/L以下という水質基準が定められています。
海外の消毒方法との違い
| 国・地域 | 主な消毒方法 | 特徴 |
|---|---|---|
日本 | 塩素消毒(+高度浄水処理でオゾンを併用) | 残留効果を重視し、配水管網全体の安全を確保 |
オランダ | 塩素を使わず、UV・オゾン等の多重処理 | 地下水中心の良好な水源と高度な浄水技術が前提 |
ドイツ | 地下水源が中心。塩素消毒は例外的 | 水源自体の汚染リスクが低い地域が多い |
オランダが塩素なしで安全な水道水を実現できているのは、良質な地下水源の保護、高度な浄水処理、配水管内での微生物増殖を防ぐ資材・管理体制など、複数の対策を組み合わせた「多重バリア」という考え方に基づいています。水源環境が異なる国でそのまま同じ方式を採用できるとは限りません。
具体的には、微生物学的に安全な地下水を優先的に選ぶ、地表水を使う場合は土壌浸透などの自然のろ過を経由させる、沈殿・ろ過・UV消毒といった物理的な処理を組み合わせる、配水管の中で微生物が増えにくい生物学的に安定した水質を保つ、といった複数の段階を重ねることで、単一の消毒方法に頼らずに安全性を確保しています。塩素という「最後の砦」がない分、それ以前の各段階で確実に管理する必要がある方式だといえます。
それぞれの方法が抱える、それぞれの課題
塩素: 消毒副生成物としてトリハロメタンが生じることがあります。詳しくはトリハロメタンとは何かで解説しています。
オゾン: 残留効果がなく、水源によっては臭素酸という副生成物が生じることがあります。プラスチックやゴムを劣化させる腐食性も、設備面での課題のひとつです。
紫外線(UV): 残留効果がなく、水が濁っていると光が届きにくくなり効果が下がることがあります。処理前に濁りをしっかり取り除く前処理が欠かせません。
また、オゾン・UVはいずれも塩素より導入・維持コストが高くなる傾向があるとされ、大規模な配水網を持つ都市部ではコスト面のハードルも無視できません。日本のように国土全体に長い配水管網が張り巡らされている国では、比較的安価で残留効果も得られる塩素消毒が、現実的な選択肢として採用され続けている面もあります。
「塩素は副生成物があるから悪い、オゾン・UVは薬品を使わないから安全」という単純な比較はできません。オゾンにも独自の副生成物があり、UV・オゾンには残留効果がないという別のリスクがあります。それぞれの方式は、トレードオフのバランスの上に成り立っています。
気になる場合、家庭でできること
浄水器を導入すれば、消毒方法そのものを変えることはできませんが、残留塩素やトリハロメタンを家庭の水から低減することができます。浄水器を比較するときに見るべき3つの視点も参考にしてください。
お住まいの地域の高度浄水処理の導入状況は、水道局のWebサイトで公表されていることがあります。
まとめ
水道水の消毒には塩素・オゾン・UVという選択肢があり、それぞれ仕組みも副生成物も異なります。日本は塩素の「残留効果」を重視しつつ、高度浄水処理という形でオゾンも組み合わせて使っています。
どの方式にも一長一短があり、「これが絶対に優れている」という単純な答えはありません。水源環境や配水網の条件、コストや歴史的経緯にあわせて、各国が試行錯誤しながら選んできた結果が、今の消毒方式だといえます。
「塩素は古い方式」という印象を持たれることもありますが、実際には各国とも複数の技術を組み合わせながら、その時々の科学的知見にあわせて最適な方法を模索し続けています。優劣ではなく、それぞれの事情を知ることが理解の近道だと考えています。